非常灯とは?種類や設置基準、誘導灯との違いを解説
目次
非常灯とは
非常灯とは、人が多く集まる場所で火災や地震、その他の災害によって停電が起きた時、その場にいる人々が安全に避難できるように室内や通路を照らし出す照明器具です。
室内や廊下、避難階段等を照らすことにより避難の安全確保や、消防隊が救助作業を行う際の照明確保といった目的があり、建築基準法により、一定の規模や用途の建物には設置が義務付けられています。非常灯には、耐熱性と点灯時間に関する基準があり、70度の周囲温度で30分以上(大型施設、高層ビルなどの場合は60分以上)点灯することとされています。
非常灯の設置基準
非常灯は、「建築基準法施行令第126条の4」によって、設置すべき建物が決められています。
次の4種類の建築物については、建築基準法で、非常灯の設置義務があります。
また、これら建物の所有者、管理者または占有者は、非常灯の設置だけでなく点検・報告の義務もあり、違反者には罰金などの罰則があります。
非常灯の設置基準
設置すべき建築物 | 設置義務のある部分 | 設置免除の場所 |
・特殊建築物 (劇場、映画館、病院、ホテル、学校、百貨店など。) | ・居室 ・避難路となる廊下、階段など | ・共同住宅の住戸 ・病院の居室 ・下宿の宿泊室 ・寄宿舎の寝室 ・学校 ・採光上有効に屋外に開放されている廊下や階段 |
・3階建以上、かつ延面積500m2超の建築物 | ||
・延面積1,000m2超の建築物 | ||
・採光に有効な窓のない建築物 |
非常灯設置義務の緩和
非常灯の設置義務がある建物でも、一定の要件を満たす場所には、設置義務の緩和があり、非常灯を設けなくてもよいことになっています。
該当居室 | 緩和条件 |
避難階の居室 | 屋外出口までの歩行距離30m以下 |
避難階の直下階・直上階の居室 | 避難階の屋外出口までの歩行距離が20m以下、 または屋外避難階段に通ずる出口までの歩行距離が20m以下 |
非常灯の種類
非常灯には、「点灯形態」、「電源」、「光源」などのいくつかの種類があります。
点灯形態による分類
点灯形態によって専用型、組込型、併用型に分けられます。
普段は消灯していて、停電時のみ点灯する。
1つの器具に平時用と非常時用の2つの光源を併せ持っている。
1つの光源で、普段は通常電灯として点灯。停電時にはバッテリー等により非常灯として点灯する。
電源の種類による分類
電源の種類によって電源内蔵型と電源別置型に分けられます。
非常灯器具の中にバッテリーを内蔵していて、停電時に点灯する。電球交換だけでなく、定期的にバッテリーも交換する必要がある。
非常灯用の電源回路を設ける必要がないため、設置するのが簡単で設置コストも抑えられる。
高所など作業がやりにくい場所の非常灯では、バッテリー交換にコストがかかってしまうことがある。
非常灯器具の中にバッテリーを内蔵していないタイプ。UPS等の非常用予備電源と回路に接続されていて、停電時には自動で予備電源に切り替わって点灯する。
電源内蔵型のようにバッテリー交換が必要ない。
非常用電源設備を設置しなければいけないため、初期費用がかかってしまう。
ランプの種類による分類
現在非常灯のランプの種類には、直管蛍光灯、コンパクト蛍光灯、ハロゲンランプ(白熱灯)、LEDがあります。
直管蛍光灯 | オフィス等の照明として、一般的に普及している棒状の蛍光灯。 |
コンパクト蛍光灯 | 管を折り曲げてサイズをコンパクトにした蛍光灯で、ダウンライトなどに使用される。 |
ハロゲンランプ | 最も一般的な電球で、非常灯にはサイズをコンパクトにしたミニハロゲンランプが使用される。 |
LED | 長寿命で省エネの電球で、電気代の節約になるため、最近では広く普及しています。 |
非常灯は従来、白熱灯と蛍光灯のみに限られていましたが、2014年からは電池内蔵型で、2017年には電源別置型で、LED照明を使用することが認められるようになりました。今では、すべての非常灯でLED照明を利用することが可能になっています。
LEDを使用することで、節電になるだけでなく、寿命がこれまでよりも長くなるので、非常灯の交換回数を大幅に減らすことができます。さらに、LEDは小型化が進んでいるので、これまでよりも非常灯のサイズを小さくして省スペース化することができて、非常灯が目立ちにくくなります。
こんなにある非常灯の種類
- 非常用蛍光灯組込形
普段は直管形LEDランプを点灯させ、非常時には非常用蛍光灯を点灯させる方式。
- 非常用ミニハロゲンランプ組込形
普段は直管形LEDランプを点灯させ、非常時には別に組み込んであるミニハロゲンランプを点灯させる方式。
- 非常用LED・蛍光灯併用形
蛍光灯を平常時および非常時、両用に点灯させる方式 。
- 非常用LED・白熱灯専用形
普段は消灯しており、非常時に点灯させる方式の非常灯です。
- 非常用白熱灯組込形
普段は蛍光灯を点灯させ、非常時には別に組み込んである非常用白熱灯を点灯させる方式。
- 非常用白熱灯専用形
普段は消灯しており、非常時にだけ非常用白熱灯を点灯させる方式。
特殊な非常灯
非常灯の中には、特殊な場所でのみ使用される防水型、防食型、防爆型などもあります。
非常灯が設置される環境は、工場内など必ずしも条件の良いところばかりではないため、様々な環境に適応した非常灯を設置することが求められます。湿気や蒸気などが多い場所では、防水型・防食型、粉塵等の多い場所では防爆型というように、それぞれの場所に適した非常灯が販売されています。
非常灯と誘導灯の違い
非常灯とよく似たものに誘導灯がありますが、こちらは火災等が起きた場合に、非常口や避難経路を照らして初期の避難誘導を行うための防災照明器具です。誘導灯は避難する人々にとって、どこから逃げればいいか、という目印になるものですが、停電した状態ではこれだけで避難することはできません。
そこで、非常灯を点灯させることによって、停電時でも最低限の照明を確保することができ、明かりのない夜間などでも安全に避難することが可能になるのです。誘導灯は、建築基準法ではなく消防法によって設置義務などが定められていて、非常灯のような耐熱性の基準はありません。
非常灯の寿命と交換時期
非常灯ランプの寿命と交換時期
非常灯ランプの交換時期は、ランプの種類によって異なります。使用するランプの交換目安は下記の通りです。
直管蛍光灯 | 1~2年 |
コンパクト蛍光灯 | 半年~1年 |
LED | メーカーによって異なるが、蛍光灯より長寿命。 |
ハロゲンランプ | 非常時のみ点灯のため、交換時期は決まっていない。 |
非常灯器具の寿命と交換時期
器具の種類 | 非常灯 | ||
電池内蔵型 | 電源別置型 | 専用型 | |
適正交換時期 | 8~10年 | 8~10年 | 8~10年 |
耐用限度 | 12年 | 15年 | 15年 |
非常灯器具の寿命は一般に8~10年となっています。
寿命を過ぎた器具は、外観ではわかりませんが、内部で機器が劣化していることもあり、非常灯が適切に点灯しない可能性があります。安全性に問題も生じる可能性があるため、早めの交換が求められます。
非常灯バッテリーの寿命と交換時期
交換時期 | 使用条件 |
4~6年 | (一般的な使用条件) 周囲温度範囲:5℃~35℃ 適切な保守点検による十分な放電:1~2回/年 |
非常灯に内蔵されている蓄電池(バッテリー)の寿命は、4~6年程度となっています。
寿命を過ぎたバッテリーを使用していると、非常灯を決められた時間点灯させることができません。
そのため、非常灯のバッテリーは定期的に交換する必要があります。また、非常灯のバッテリーは、建築基準法により、定期点検が義務付けられています。
非常灯の交換作業
非常灯ランプ・バッテリーの交換
非常灯のランプ、バッテリーの交換には特に資格は必要ありません。
専用工具等も必要なく、パネルやカバーを取り外すことで、交換することができるようになっています。
このため、ランプ、バッテリー交換は、比較的誰でもできる簡単な作業となっています。
非常灯器具の交換
これに対して、非常灯器具の交換をする場合には特定の資格が必要になります。非常灯器具の交換では、100Vの回路を取り扱うことになるので、電気工事士かそれに準じる資格が求められます。
さらに、器具交換後の届け出を行うためには消防設備士の資格も必要です。器具の交換から、交換後の届け出までできるのは、下記のいずれかの資格者となっています。
- 第四類甲種消防設備士
- 第四類乙種消防設備士の有資格者で電気工事士の資格または電気主任技術者の資格をもっている者
- 第七類乙種消防設備士の有資格者で電気工事士の資格または電気主任技術者の資格をもっている者
- 第二種消防設備点検資格者
まとめ・選び方
非常灯は、建築基準法によって規定されている防災照明器具で、停電時に定められた時間点灯することが求められています。非常灯を選ぶ際には、設置する場所で使われているのが、電源内蔵型なのか、電源別置型なのかを確認した上で、蛍光灯やハロゲンランプ、LEDの中から最適なタイプのランプを選ぶようにしましょう。
非常灯には、定期的な点検やバッテリー、器具等の交換も必要です。非常灯は災害時に人命を守る大切な防災器具ですから、停電が起こってから慌てることのないよう、常に適切な状態を保つようにしましょう。